ふたたびブログ

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雨の日記:定年後の父に会うのが怖い

 雨がしとしとと降り続いている。
 梅雨というやつは明けたのか、明けていないのか、はたまた明けたフリでもしているのか、よくわからないやつだ。毎年のことなのだろうが、毎年そう思う。

 この夏は実家に帰りたいと思っている。
 転職をしたら夏休みが1週間も、それも「自由に使える休暇を何日分」とかではなく「この日からこの日までは会社として非稼働日です」という形式で貰えるらしい。社会人になってからちょうど10年が経とうとしているが、こんなに夏休みを貰ったことはないので正直戸惑っている。大学の頃はキャンパスの改修工事だとかに巻き込まれて3カ月近く休んでいた。それはそれでというやつだが。

 ともかく夏休みが長いこともあって、せめても実家に、半分くらいの日数は帰っておきたいものだと考えている。とはいえ感染症の流行状況も鑑みなくてはならないし、帰ったところで友人と飲みに繰り出すのは難しそうで、せいぜいが「絶対にコロナ禍を乗り切ってほしい雑貨店」へ買い物に……行けるのだろうか……あそこはお盆は休みじゃあなかろうか……大人しく通販を利用すべきではなかろうか……といった具合である。
 ようするに「帰るには帰るけど帰ったところでやることは特にない」というやつ。

 なのだけれど、帰ってはおきたいのが不思議な心理なのである。
 まあ、親の顔は見ておくか、と思う程度には私と両親は不仲ではないということなのかもしれない。

 そんなことを書いているうちに外では雨脚が強まってきた。実家とは別の地域だけれど、地元のとある町では雨のたびに川の氾濫が危ぶまれるので、よくエリアメールが届いていた。そういえば引っ越してきてから、とんと、そんな通知を聞かなくなった。

 いつかは両親も、あるいは遠くないうちに、「ご高齢の方は早めに避難を」と言われるうちに入ってくるのだろう。年齢だけみたら入っているのかもしれない。あるいは「まだ入っていない」との思い込みが危険なのかもしれない。私にとっても、両親にとっても、弟やその家族にとっても。

 父は定年退職後の有給消化に入っているという。
 別段、仕事人間ではない父だった。新卒入社した会社でパワハラに遭って身体を壊し、私と弟の学費と食費がもっともかかるタイミングで会社を辞めた。いくつか職を転々として今の(在籍はしているから「今の」で合っているだろう)職場に縁があって、それからええと、10年以上は経つのだったか。私にはまだ途方もなく遠い年数だ、定年退職。私の頃にそのシステムがどう稼働しているか知らないけれど。

 一時的なものではなく、労働を離れるにいたった父は、どんな顔して家庭菜園の極太キュウリを収穫しているのだろう。あるいは初孫の相手をしているのだろう。勝手な転職に小言を貰う予感を脇に置いておいたとしても、私はすこし、会うのが怖い。

 

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ツイッターで「文披31題」という創作企画に参加しています。7月の31日間を通して31のお題にチャレンジするというもの。数日遅れのゆるゆる追いかけ投稿ですが、ご覧いただけると幸いです。

*5月に佳作をいただいた140字小説企画にも引き続き参加しています。「7月の星々」のテーマは「放」だそうです。