ふたたびブログ

いろんなものを書きます

置き去りの私とシーンの明日とゆりかごのユーミン

 恥ずかしながらと言うべきであろう、もう10年以上は音楽シーンに対する認識がアップデートされていない。元来、あまり流行に明るくもなく飛びつきもせず追いかけることには引っ込み思案でそのくせ、運命的に出会ったものにだけとことんハマる、別に音楽フリークでもなんでもない、そんなリスナーが私である。実家を離れてテレビをほとんど見なくなってからというもの、いよいよ、紅白歌合戦でその年の流行を知るようになってきてしまった。Youtubeにハマれないタイプなのもある。なにぶん、料理のレシピすらまどろっこしくて「テキストでくれ」と思ってしまう。さておき。

 職場でラジオが流れている。地元のFM局である。

 リクエストの都合で朝の10時から氣志團のワンナイトカーニバルを流された日にはどんなモチベーションで働けばいいのか丸一日迷子になったが、基本的には聞き流して仕事をしている。ほどほどに流しておけるのがラジオのよいところでもある。

 それが昨日はなんだか耳に留まった。

 たまに(得てして仕事の集中力が切れたタイミングだが)、ふと「ああ今流れてるやつなんて曲だろう」と思って、その場で検索することがある。へえ、yamaって人の『桃源郷』って曲なんだ、ふうん。なんか耳に残るな。あとでちゃんと聴いてみようかな。こういう時に便利なサブスクをあまり活用してないからな、サブスクに入ってるのかな、帰ったら調べてみようかな、とりあえずメモしておこ。という感じで。

 でも実際は帰宅するとぐったりしていて調べないことがほとんどなのだった。
 それをめずらしくも調べた時点で運命は私に微笑んだのかもしれなかった。

 

yama.lnk.to

www.youtube.com

 

 私は最初にサブスクで曲だけを聴いたので、とつぜんMVから見る場合とはおそらく出会いの印象が違うと思うのだが。

 聴いた最初の印象はとにかく「こんなの全部すき」だった。

 曲について文章で書き表すのは本当に難しいなと思うのだが、微妙で絶妙な歌謡曲っぽさがいい。この歌謡曲感はメロディによるものなのだろうか、コード進行とかなのだろうか。とにかくそれがすごくいい。クセになる。
 それでいて、すっごくちゃんと「今の曲」というか、2022年の新曲という感じがする。古くさくない、といえば分かりやすいのかもしれないが、別に歌謡曲を古くさいと言いたいわけではない……でもとにかく、ノスタルジックなのに新しく感じるし、だけどなんだか真ん中にずどんと来る感じがする。

 それから歌詞がほんとうにいい。アイロニーの韻の踏み方なんてとっても好みだ。幾重にも多くの側面から汲み取ったり、自分や他人に落とし込んだり、できてしまう抽象性が私はすきだ。だからたとえばリリースがあと2か月前だったなら、ラジオで聞いたのがうららかな春の頃だったなら、こんなに刺さったのかどうかは私もわからない。今の私にはひたりと寄り添って心臓の筋を弾き鳴らす言葉運びだった。

 もう今更だけれども声がいい。ちょっと低くてハスキーな印象のある歌声が、いやみなく、ぬるりと、ひやりと心地好く、鼓膜を撫でていく感じがする。

 

 私は「あまり流行に明るくもなく飛びつきもせず追いかけることには引っ込み思案でそのくせ、運命的に出会ったものにだけとことんハマる」性質である。運命を感じるなんていうのは10年に1回もあるかどうかである。MVを観た流れでそのまま、スマホから検索をかけたら、秋にはツアーで私もアクセス可能な範囲にいらっしゃるという。
 というわけで、いまは当落待ちである。
 ちょうど先行申込みの出来る時期に出会えたのも――そりゃ、ツアーを見据えて曲やアルバムをリリースなさっているから当然は当然なのだけれど――タイミングなんだろうなと思ってみたりして。

 

 昨日からずっとyamaさんの歌声を聴いている。『桃源郷』をひたすら聴いている。ようやっとそらで口ずさめるようになってきた。ほかの曲なら『ランニングアウト』『麻痺』あたりがすきだと思った。だけど『桃源郷』がいちばんすきかもしれない。

 なんとなく感じる懐かしさ、母の車の中で聴いた曲たちを思い出す。母の車のセットリストは邦楽だと、たいていユーミン高橋真梨子。あまりトンチンカンなことを言って音楽シーンに明るい方に叱られそうだなと思うが、私が思い出すのは思い出すのだから仕方がない。
 車のオーディオにCDプレイヤーがやっと付き始めたくらいの頃に、CDから焼いたらしかったカセットテープの音源。車酔いのひどい私はどうにかして気を紛らわしていないと、慣れ親しんだ母の車の中ですら吐き気を催すことがあって、一生懸命に口ずさんでいた。真夏の世の夢、恋人はサンタクロース。それから桃色吐息、五番街のマリーへ。とか。

 

 私が車を運転するならそのときは車内へ『桃源郷』を流してみたいなと思った。よく晴れた日につづら折りの山道を、沿岸の親戚の墓参りに向かって走るのだ。実態はゴールドペーパードライバーなのでそんな予定は、この夏も無いのだが。