だれもころしたくはないのに
息をしているということは、常にだれかをころすことなのかもしれない。
溜め息を漏らすのも億劫そうに、白樺の枝のような指がティースプーンをくるり。四角い砂糖が溶けた。
私はおそらく思想がいささか、他人よりも過激なのだろう。私にそんなつもりはないがね。私より過激な者は幾らもいる。私より優れたる者ならば、掃いて捨てるほど居る。私如きを排除してみていったい何になる。
そんなら見限ったらいいじゃないかきみだって、と出かかった喉に湯気の立つ紅茶をすすめられた。聞き飽いたよと零しさえしない。彼女はほとほと面倒になったのだろう。
とはいえ過激か、過激ではないか、害があるのか無いのか、それは個々の置かれた立場や感覚や思想信条によるものだから、私の思想がなによりも過激に見えるという主張も、批判も、攻撃も、致し方なく甘んじて受けねばならぬのかもしれない。
「投獄も火刑もね」
彼女はほほえんだ。遠い日の、足のうらを舐める焔の感触をくすぐったく思い出しているようだった。私はだんまりの言葉を呑み込んで、ハーブティーを食道へ流す。